量子4社|直近四半期で向きが逆になった

量子4社|直近四半期で向きが逆になった 量子

量子コンピュータの上場企業4社を、同じ表に並べました。最初は年次の決算で並べて、そのまま記事にするつもりでした。年次のほうが数字が固まっていて、比べやすいからです。

途中で四半期の提出書類を開いて、手が止まりました。年次で見えていた絵と、直近の絵が逆を向いていました。

年次(2025年12月期)では、4社のうちRigettiだけが減収でした。ところが直近の上期(2026年1-6月)を見ると、Rigettiは前年同期の約2.9倍に増えています。代わりに、年次で3倍近く伸びていたD-Waveが前年同期比で約3分の1に落ちています。

数字はどちらも本物です。見ている期間が違うだけで、結論が入れ替わります。

先に結論
・直近四半期(2026年4-6月)の売上は IonQ 80.0/QUBT 5.6/Rigetti 5.1/D-Wave 3.1(百万ドル)
・上期(1-6月)の前年同期比は IonQ 約5.1倍/Rigetti 約2.9倍/D-Wave 約0.33倍
年次だけを見ると向きを間違える。2025年12月期では逆の順序に見えた
・手元資金は6月末で IonQ 2,959/QUBT 1,324/D-Wave 550/Rigetti 541(百万ドル)
ソラソラ
年次と四半期で逆になるって、どっちが正しいの?
インキーインキー
どっちも正しいよ。ただ年次は最大で1年以上前の話になる。2025年12月期の数字が出そろったのは2026年の2月で、いまはもう8月末の四半期まで出てる。この業界は動きが速いから、古いほうを持ったままだと、逆の結論を配ることになるんだ。
2025年1-12月の年次と2026年1-6月の上期という2つの期間を時間軸の上に示した模式図。同じ会社でも見る期間で結論が変わる
この記事で起きていることを、時間の軸で見た図です。どちらの数字も本物で、違うのは切り取った期間だけ。それでも「どの会社が減収か」の答えが入れ替わります。

直近四半期(2026年4-6月)

4社とも8月上旬に四半期報告書を提出しています。そこから売上高を取り出しました。単位は百万ドルです。

会社 2026年4-6月 前年同期(2025年4-6月) 提出日
IonQ 80.0 20.7 2026-08-10
Quantum Computing 5.6 0.1 2026-08-10
Rigetti 5.1 1.8 2026-08-06
D-Wave 3.1 3.1 2026-08-06

四半期は季節や案件のタイミングで揺れるので、上期(1-6月)でも並べます。

会社 2026年1-6月 2025年1-6月 変化
IonQ 144.7 28.3 約5.1倍
Rigetti 9.5 3.3 約2.9倍
Quantum Computing 9.2 0.1 ほぼゼロからの立ち上がり
D-Wave 5.9 18.1 約0.33倍
量子4社の2026年1-6月と2025年1-6月の売上を比べた横棒グラフ。IonQは144.7に対し前年28.3、Rigettiは9.5に対し3.3、Quantum Computingは9.2に対し0.1、D-Waveは5.9に対し前年18.1
濃い棒が今年、薄い棒が前年です。D-Waveだけ、今年の棒が前年より短いのが目で分かります。IonQは棒の長さが桁で違い、他の3社を合わせても届きません。

D-Waveだけが減っています。しかも3分の1です。

年次で見ていたら、逆の記事を書いていた

2025年12月期(年次)の売上は、こうでした。

会社 2025年12月期 2024年12月期 変化
IonQ 130.0 43.1 約3.0倍
D-Wave 24.6 8.8 約2.8倍
Rigetti 7.1 10.8 約0.66倍
Quantum Computing 0.7 0.4 約1.8倍

年次だけを見れば、「D-Waveが伸びていて、Rigettiが減っている」と書くことになります。直近の数字は、その逆を示しています。

年次は「最大で1年以上前」の話
2025年12月期の内容は、2025年1月から12月までの出来事です。それが提出されたのは2026年2月下旬。いま読める最新は2026年6月までなので、年次だけを見ていると半年から1年半ぶん遅れます。技術も契約も動いている業界では、この遅れが向きを反転させます。

D-Waveの年次には、もうひとつ手がかりがありました。2025年12月期に計上された売上24.6のうち、18.9は期首の時点ですでに契約負債(前受け)に載っていた分だと同社のデータに記録されています。つまり通期の伸びの大半は、以前に受け取っていた金額が売上に振り替わったものでした。その振り替えが一巡すれば、翌期の数字は落ちます。2026年上期の減り方は、この形と整合します(断定はできません。決算資料の注記を読む必要があります)。

手元資金は、6月末で並べ直す

資金も同じで、年末の数字を持っていても意味がありません。2026年6月30日時点で並べます。現金だけでなく、短期・長期の有価証券を足した金額です。

会社 現金 有価証券 合計 上期の営業損益
IonQ 1,235.7 1,723.6 2,959.3 −608.8
Quantum Computing 189.2 1,134.3 1,323.5 −43.6
D-Wave 296.6 253.8 550.4 −108.0
Rigetti 27.8 513.5 541.3 −54.0
量子4社の2026年6月末の手元資金と、2026年1-6月の営業赤字を比べた横棒グラフ。IonQは手元2959.3に対し赤字608.8、Quantum Computingは1323.5に対し43.6、D-Waveは550.4に対し108.0、Rigettiは541.3に対し54.0
濃い棒が手元資金、薄い棒が上期の営業赤字です。D-WaveとRigettiは手元がほぼ同額ですが、赤字の棒はD-Waveが倍あります。同じ資金でも減っていく速さが違う、というのがこの2本の差です。

現金の欄だけを見ると、順序がまるで違います。Rigettiは27.8しか持っていないように見えますが、513.5を有価証券に置いているだけです。資金の置き方は会社の方針で、財務体力の差ではありません。

上期の営業赤字を2倍して年換算し、手元資金を割ると、単純計算の持ち時間が出ます。IonQ 約2.4年、D-Wave 約2.5年、Rigetti 約5.0年、QUBT 約15.2年。赤字幅が今のままなら、という仮定の割り算です。それでも、通期の数字で同じ計算をすると IonQ 約5.3年 と出るので、ここでも新しいほうを使わないと倍近くずれます。

並べる途中で踏んだ落とし穴

数字を集める側の話も、短く残しておきます。同じことをする人が同じ穴に落ちるからです。

ソラソラ
公式のデータなら、そのまま並べるだけじゃないの?
インキーインキー
それが並ばないんだ。どの棚に置くかは会社が決めるからね。同じ「売上」でも棚の名前が違うと、取りに行った棚は空っぽになる。数字が無いんじゃなくて、見に行った場所が違う。

①売上高のラベルが3種類ありました。IonQとD-Waveは「Excluding(税抜)」、Rigettiは「Including(税込)」、Quantum Computingは「Revenues」。1種類だけ見に行くと欄が空になり、しかもエラーは出ません。「その会社は公表していないのだろう」と読んでしまえば、そこで終わります。

②同じ有価証券が2つのラベルに入っていました。D-Waveの年末データには 249.100 と 249.134 という、ほぼ同額の項目が別名で並んでいます。機械的に足していたら249百万ドルを二重に数えるところでした。金額が近すぎる行が2つ出たら、足す前に止まる。

③年次だけを見ていました。今回いちばん危なかったのはこれです。年次は数字が固まっていて扱いやすく、扱いやすいほうを選んだ結果、8か月前の絵を配るところでした。

そもそも各社が何を量子ビットにしているかで、得意苦手が変わります。IonQが選んだ方式についてはなぜIonQは超伝導ではなくイオンを選んだのかに、提出書類の記述と模式図つきでまとめました。

よくある疑問

Q. 四半期の数字は当てになりますか

A. 監査を受けた年次に比べると精度は落ちますが、提出書類であることに変わりはありません。四半期は揺れるので、単独の3か月ではなく、上期・下期や前年同期と並べて見るのが実務的です。この記事で四半期と上期の両方を出したのはそのためです。

Q. どこで確認できますか

A. SECのAPIに企業番号を入れると、ラベル付きの数字がそのまま返ります。記事末尾に4社ぶんのURLを置きました。各数値には提出書類の受付番号が付いているので、元の書類まで戻れます。

Q. 投資判断に使えますか

A. この記事は提出書類の数字と、その単純な割り算を並べたものです。銘柄の推奨も、買い時・売り時の判断も書いていません。そのための情報として書かれてもいません。

次に更新するのは11月

  • 直近四半期(2026年4-6月)の売上: IonQ 80.0/QUBT 5.6/Rigetti 5.1/D-Wave 3.1(百万ドル)
  • 上期の前年同期比: IonQ 約5.1倍/Rigetti 約2.9倍/D-Wave 約0.33倍
  • 年次(2025年12月期)だけを見ると、RigettiとD-Waveの向きが逆に見える
  • 手元資金は6月末で IonQ 2,959/QUBT 1,324/D-Wave 550/Rigetti 541。現金の欄だけでは順序が違う

出典は、4社が2026年8月にSECへ提出した四半期報告書(Form 10-Q)です。
IonQ
Rigetti
D-Wave
Quantum Computingの4本。いずれも英語ですが無料で、誰でもそのまま開けます。数字は各社の連結損益計算書と貸借対照表から拾いました。

期間の取り方で絵が変わるのは量子だけの話ではありません。防衛2社|売上は伸び、利益は消えたでは、決算期が違う2社を並べるときの注意を扱いました。片方は四半期、片方は通年。同じ「2026年」でも中身の期間が違います。

4社の次の四半期報告は11月前後に出ます。この表はそのたびに置き換えます。今回いちばん学んだのは、数字の正しさよりいつの数字かを先に確かめることでした。年次の表は、作った時点ですでに古くなっています。

この記事を書いた人
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YA

某メーカーで働く30代、1児の親です。2025年10月から、米国企業の企業分析を個人で続けています。肩書きはありません。証券会社でも調査会社でもないので、銘柄の推奨も、目標株価も、買い時・売り時も書きません。書けません。

やっていることは、わりと地味です。量子・宇宙・防衛の3分野について、各社がSECに出した書類の数字と、その日のニュースと、アナリストがどう言っているかを並べて、「で、いまどこにいるのか」を日本語に直す。英語の原文はいいことも悪いことも同じ顔で書いてあるので、その温度差ごと訳すのがこのサイトの役目だと思っています。

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