量子コンピュータの上場企業4社を、同じ表に並べました。最初は年次の決算で並べて、そのまま記事にするつもりでした。年次のほうが数字が固まっていて、比べやすいからです。
途中で四半期の提出書類を開いて、手が止まりました。年次で見えていた絵と、直近の絵が逆を向いていました。
年次(2025年12月期)では、4社のうちRigettiだけが減収でした。ところが直近の上期(2026年1-6月)を見ると、Rigettiは前年同期の約2.9倍に増えています。代わりに、年次で3倍近く伸びていたD-Waveが前年同期比で約3分の1に落ちています。
数字はどちらも本物です。見ている期間が違うだけで、結論が入れ替わります。
・上期(1-6月)の前年同期比は IonQ 約5.1倍/QUBT 約92倍/Rigetti 約2.9倍/D-Wave 約0.33倍
・ただしこの4つの倍率は、4つとも別の出来事を映している。並べて順位をつけても何も出てこない
・D-Waveの減収もRigettiの増収も、機械1台ぶんの行で説明がつく。その行を外すと D-Wave +26%/Rigetti −27% で向きが逆になる
・QUBTの92倍は買った会社の売上。しかも売上原価が売上を上回り、粗利は −1,887千ドル
・4社で機械の行とサービスの行が両方伸びているのはIonQだけ(受注残485.0百万ドル・上期は上位2社で27%)
・手元資金は6月末で IonQ 2,959/QUBT 1,324/D-Wave 546/Rigetti 541(百万ドル)

直近四半期(2026年4-6月)
4社とも8月上旬に四半期報告書を提出しています。そこから売上高を取り出しました。単位は百万ドルです。
| 会社 | 2026年4-6月 | 前年同期(2025年4-6月) | 提出日 |
|---|---|---|---|
| IonQ | 80.0 | 20.7 | 2026-08-10 |
| Quantum Computing | 5.6 | 0.1 | 2026-08-10 |
| Rigetti | 5.1 | 1.8 | 2026-08-06 |
| D-Wave | 3.1 | 3.1 | 2026-08-06 |
四半期は季節や案件のタイミングで揺れるので、上期(1-6月)でも並べます。
| 会社 | 2026年1-6月 | 2025年1-6月 | 変化 |
|---|---|---|---|
| IonQ | 144.7 | 28.3 | 約5.1倍 |
| Rigetti | 9.5 | 3.3 | 約2.9倍 |
| Quantum Computing | 9.2 | 0.1 | ほぼゼロからの立ち上がり |
| D-Wave | 5.9 | 18.1 | 約0.33倍 |

D-Waveだけが減っています。しかも3分の1です。
年次と四半期で結論が変わる
2025年12月期(年次)の売上は、こうでした。
| 会社 | 2025年12月期 | 2024年12月期 | 変化 |
|---|---|---|---|
| IonQ | 130.0 | 43.1 | 約3.0倍 |
| D-Wave | 24.6 | 8.8 | 約2.8倍 |
| Rigetti | 7.1 | 10.8 | 約0.66倍 |
| Quantum Computing | 0.7 | 0.4 | 約1.8倍 |
年次だけを見れば、「D-Waveが伸びていて、Rigettiが減っている」と書くことになります。直近の数字は、その逆を示しています。
ではD-Waveの通期の伸びは何だったのか。ここで手を止めて注記まで開いたのが、この記事のいちばんの収穫でした。次の節がその中身です。
増収の中身は4社とも別
ここまでは、各社の損益計算書のいちばん上の行だけを見ています。その1行の下に、会社が自分で切った内訳の表があります。四半期ごとにSEC(米国の証券監督当局)へ出す決算報告書、その10-Qの注記のほうです。そこまで開いたところで、上の表の読み方が変わりました。
4社の「前年同期比」は、それぞれ違う出来事を映していました。しかもそのどれもが、翌期に同じ形では残らない種類の出来事でした。

D-Waveの減収は機械1台ぶん
いちばんはっきり出たのがD-WaveとRigettiです。この2社は、上の表では正反対に見えます。D-Waveが3分の1に減り、Rigettiが2.9倍。内訳を開くと、その差は機械の売上という1行だけで説明がつきました。
| D-Wave(千ドル) | 2026年1-6月 | 2025年1-6月 |
|---|---|---|
| System sales(機械の販売) | 341 | 13,672 |
| QCaaS(クラウド利用) | 3,619 | 2,774 |
| Professional services | 1,912 | 1,562 |
| その他 | 62 | 88 |
| 合計 | 5,934 | 18,096 |
合計の減りは12,162です。機械の行だけで13,331減っています。減った額より大きい。つまり機械以外は、合計すると増えているということです。実際、機械を除いた合計は 4,424 → 5,593 で26%増。毎月課金が立つQCaaSに限れば 2,774 → 3,619 で30%増です。
Rigettiは逆向きに同じことが起きています。
| Rigetti(千ドル) | 2026年1-6月 | 2025年1-6月 |
|---|---|---|
| 量子コンピュータ・部品の販売 | 7,144 | — |
| 共同研究・専門サービス | 2,251 | 3,043 |
| システムへのアクセス提供 | 143 | 230 |
| 合計 | 9,538 | 3,273 |
伸びの正体は、前年はゼロだった行です。この行が7,144。そして前年から存在していた研究・サービスの行は、3,273から2,394へ減っています(27%減)。同社は「Revenue recognized at a point in time(一時点で認識した売上)」として7,144を別に示していて、これが機械の販売とぴったり一致します。一時点で認識する=翌期には自動では立たない売上ということです。

「D-Waveは失速し、Rigettiは加速した」という読み方は、機械を1台売った期と売らなかった期を並べただけかもしれません。逆に「D-Waveの継続部分は増えている」も、機械を含めれば減収であることを消しはしません。どちらの言い方も、片方だけでは足りないということです。
D-Wave の減り方は、注記を開くと理由が名指しで出てきます。2025年上期の18,096のうち13,672が機械の販売でした。大きな機械が1台売れた期と、売れなかった期を比べている——合計の行だけを見ていると、これが「3分の1に減った会社」に見えます。
この会社が何を売っていて、なぜ1台の納入で合計が3倍動くのかは、D-Wave がどんな会社かで事業の形から整理しました。
QUBTの92倍の中身
上期でいちばん倍率が大きいのはQUBT(Quantum Computing Inc.)です。100が9,242になっている。数字だけ見れば92倍です。
同社の10-Qには、買収がもし前年の期首にあったらどうだったかを示す表(pro forma)が載っていて、そこに買収前の自社ぶんだけの売上が並んでいます。前年上期のQCi単体は100、四半期では61。伸びたぶんの大半はLSI・NuCrypt・NHancedという買ってきた会社の売上です。
もうひとつ、損益計算書を1行下まで読むと形が見えます。
| QUBT(千ドル) | 2026年1-6月 | 2025年1-6月 |
|---|---|---|
| 売上 | 9,242 | 100 |
| 売上原価 | 11,129 | 61 |
| 粗利 | −1,887 | 39 |
原価が売上を上回っています。売った金額より、それを作るのにかかった金額のほうが大きい。会社はこれを、生産量が落ちて固定費を吸収しきれていないためと説明し、生産量が戻れば改善を見込むとしています。他の3社はいずれも粗利が黒字です(D-Wave 3,522/Rigetti 3,566/IonQ 35,354。IonQの数字は損益計算書に粗利の行が無いため当サイトの引き算です)。

この92倍がどこから来たのかは、会社そのものを見ると形がはっきりします。室温で動く設計、5か月で3社を買ったこと、原価が売上を上回っていること——Quantum Computing|どんな会社?で事業の側からまとめました。
IonQは両方の区分が伸びている
IonQの内訳はこうです。
| IonQ(千ドル) | 2026年1-6月 | 2025年1-6月 |
|---|---|---|
| Quantum hardware(機械) | 82,176 | 17,130 |
| Platform・コンサル・サポート | 62,542 | 11,130 |
| 合計 | 144,718 | 28,260 |
4社の中で、機械の行とそれ以外の行が両方とも伸びているのはIonQだけです。ただしこの「Platform・コンサル・サポート」にはプロジェクト型のコンサルが混じっていて、まるごと継続収入とは読めません。それでも、片方の行だけで説明がつく他の3社とは形が違います。
同じ注記に、いくつか目に留まる数字があります。
- 韓国向けが 744 → 18,060(上期)。四半期では 556 → 17,774 で、1四半期で32倍になっています。スイス向けも 3,775 → 21,442。
- 顧客の集中は下がりました。前年上期は3社で売上の73%でしたが、今期上期は2社で27%。四半期でも65%→33%です。
- 残っている履行義務(受注残)は約4億8,500万ドル。同社はそのうち約50%を今後12か月で売上に計上する見込みと書いています。
比較のために書いておくと、Rigettiは逆の形です。四半期の売上の64%が単独の1社で、上期でも上位2社で59%。加えて政府向けの比率が、前年上期の90.7%から今期上期の22.2%へ落ちています。買い手の顔ぶれが入れ替わっている最中だと読めます。
IonQが何を売っていて、その売り物をどうやって集めてきたのかは、IonQ|どんな会社?で買収9件まで分解しました。上の表の1列が、どこから出てきたかが分かります。
4社で見るべき指標
ここまでで、前年同期比を並べる意味はほとんど無くなりました。代わりに見る場所を3つに絞ります。いずれも10-Qに載っていて、無料で読めます。
6月末時点の手元資金
資金も同じで、年末の数字を持っていても意味がありません。2026年6月30日時点で並べます。現金だけでなく、短期・長期の有価証券を足した金額です。
| 会社 | 現金 | 有価証券 | 合計 | 上期の営業損益 |
|---|---|---|---|---|
| IonQ | 1,235.7 | 1,723.6 | 2,959.3 | −608.8 |
| Quantum Computing | 189.2 | 1,134.3 | 1,323.5 | −43.6 |
| D-Wave | 296.6 | 249.6 | 546.2 | −108.0 |
| Rigetti | 27.8 | 513.5 | 541.3 | −54.0 |

現金の欄だけを見ると、順序がまるで違います。Rigettiは27.8しか持っていないように見えますが、513.5を有価証券に置いているだけです。資金の置き方は会社の方針で、財務体力の差ではありません。
ここからは当サイトの試算です。上期の営業赤字を2倍して年換算し、手元資金を割ると、単純計算の持ち時間が出ます。IonQ 約2.4年、D-Wave 約2.5年、Rigetti 約5.0年、QUBT 約15.2年。赤字幅が今のままなら、という仮定の割り算です。それでも、通期の数字で同じ計算をすると IonQ 約5.3年 と出るので、ここでも新しいほうを使わないと倍近くずれます。
なお、この割り算に使ったIonQの608.8は営業損失で、決算の見出しに出る純損失1,064.0とは別の行です。差の大半はワラント負債の評価替えで、現金は動いていません。その中身はIonQ|赤字の内訳とワラント評価損の仕組みで分解しました。
そもそも各社が何を量子ビットにしているかで、得意苦手が変わります。超伝導とは極低温で電気抵抗がゼロになる現象のことで、その回路を量子ビットに使う会社があります。IonQが選んだのはそちらではありません。理由はなぜIonQは超伝導ではなくイオンを選んだのかに、提出書類の記述と模式図つきでまとめました。
よくある疑問
Q. 四半期の数字は当てになりますか
A. 監査を受けた年次に比べると精度は落ちますが、提出書類であることに変わりはありません。四半期は揺れるので、単独の3か月ではなく、上期・下期や前年同期と並べて見るのが実務的です。この記事で四半期と上期の両方を出したのはそのためです。
Q. どこで確認できますか
A. この記事の下にある出典から、4社の四半期報告書をそのまま開けます。表の数字はどれもその書類の損益計算書・貸借対照表・注記から取っているので、開いて同じ行を探せば突き合わせられます。
Q. 投資判断に使えますか
A. この記事は提出書類の数字と、その単純な割り算を並べたものです。銘柄の推奨も、買い時・売り時の判断も書いていません。そのための情報として書かれてもいません。
次回の更新時期
以下の数字は上期(1-6月)です。四半期のものはその都度そう書いています。
- D-Wave: 減ったのは機械の行だけ(13,672→341)。それを外すと 4,424→5,593 で26%増。QCaaS単独では30%増
- Rigetti: 伸びは前年ゼロだった機械の行(0→7,144)。前年からある研究・サービスは 3,273→2,394 で27%減。四半期の売上の64%が1社
- QUBT: 前年の自社ぶんは上期で100。増えたぶんは買った会社の売上。売上原価11,129>売上9,242で粗利は赤字
- IonQ: 機械 17,130→82,176・サービス 11,130→62,542 で両方が伸びた唯一の会社。韓国向けが744→18,060。受注残485.0百万ドル
- 手元資金は6月末で IonQ 2,959/QUBT 1,324/D-Wave 546/Rigetti 541。現金の欄だけでは順序が違う
期間の取り方で絵が変わるのは量子だけの話ではありません。防衛2社|KratosとAeroVironmentの決算を比較では、決算期が違う2社を並べるときの注意を扱いました。片方は四半期、片方は通年。同じ「2026年」でも中身の期間が違います。
4社の次の四半期報告は11月前後に出ます。この表はそのたびに置き換えます。ただし置き換えるのは合計ではなく、売上内訳の表のほうです。合計だけを更新していたら、今回の4つの理由はどれも見えないままでした。
4社の売上を1枚の表に並べると、倍率の大小がそのまま勢いの順に見えます。実際にはその4つは、機械1台・前年ゼロの行・買ってきた会社・本当の伸びと、4つとも別の出来事でした。合計の行は会社をまたいで比べられる形をしているぶん、比べてはいけないものまで並べてしまいます。表が揃って見えるときほど、その1行下に何があるかを開いてください。
主な提出書類の対象期間末: 2026-06-30(記事はこれより新しい発表も扱います。日付は本文に書いています)
- 四半期報告書 Form 10-Q(2026年6月期)https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1824920/000119312526341001/ionq-20260630.htm
- 四半期報告書 Form 10-Q(2026年6月期)https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1838359/000110465926091993/rgti-20260630x10q.htm
- 四半期報告書 Form 10-Q(2026年6月期)https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1907982/000190798226000129/qbts-20260630.htm
- 四半期報告書 Form 10-Q(2026年6月期)https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1758009/000162828026055218/qubt-20260630.htm
数値は上記の原文から取っています。当サイトは特定銘柄の推奨・目標株価・売買の判断を書きません。








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