防衛2社|売上は伸び、利益は消えた

防衛2社|売上は伸び、利益は消えた 防衛

防衛の記事は「受注が増えた」「予算が増えた」で終わりがちです。ところが実際に提出書類を開くと、売上が伸びた期に、利益のほうが消えている会社が並んでいます。

Kratos は直近の四半期で売上が3割増え、営業損益はマイナスになりました。AeroVironment は年間の売上が2.4倍になり、営業損益は3億ドルを超える赤字です。伸びていないから赤字なのではありません。伸びた期に赤字になっています。

先に結論
・Kratos の2026年4-6月は売上 458.8百万ドル(前年同期比 約1.31倍)、営業損益 −1.6百万ドル
・AeroVironment の2026年4月期は売上 1,976.8百万ドル(前年比 約2.41倍)、営業損益 −311.0百万ドル
・赤字の理由は別々。Kratos は費用の先行、AeroVironment は宇宙部門ののれん減損(240.7百万ドル)
決算期が違う(Kratos は12月期、AeroVironment は4月期)ので、同じ「2026年」でも中身の期間が違う
ソラソラ
売上が2.4倍で赤字って、どういうこと?
インキーインキー
売上が2.4倍になったのは会社を買ったからで、その買った会社の値打ちを下げて帳簿から落としたのが赤字の中身なんだ。売る力が落ちたわけじゃない。ただし、落としたのは「高く買いすぎた」と自分で認めたということでもある。
Kratosは無人機・推進系・宇宙地上系、AeroVironmentは小型無人機・徘徊型の弾・宇宙という事業構成を示した模式図
提出書類に書かれている事業の範囲です。2社とも無人機を作っていますが、Kratos は標的機や戦術ジェット、AeroVironment は手投げの偵察機と徘徊型で、置いている場所が違います。右下の「宇宙」が、この記事で出てくる減損の場所です。

Kratos: 3割増えて、営業はマイナス

まず数字です。2026年8月4日にSECへ出た四半期報告書(Form 10-Q)から取りました。単位は百万ドルです。

Kratos 2026年4-6月 2025年4-6月 変化
売上 458.8 351.5 約1.31倍
売上総利益 100.1 73.8 約1.36倍
研究開発費 13.6 10.2 約1.33倍
営業損益 −1.6 3.7 赤字へ
純損益 4.4 2.9 約1.52倍

売上総利益は売上より速く増えています(1.36倍)。つまり作って売るところでは負けていません。それでも営業損益がマイナスになったのは、その下に乗る費用が売上以上に増えたからです。研究開発費は1.33倍。

同社は2026年8月4日の決算発表で、通期のオーガニック(買収を除いた自力の)売上成長率の見通しを18〜23%へ引き上げています。受注残は20.84億ドル(うち予算がついている分が15.72億ドル、まだ付いていない分が5.127億ドル)。提案中の案件は150億ドルで、第1四半期末の143億ドルから増えました。

読むときの注意
「営業赤字1.6百万ドル」と「純利益4.4百万ドル」が同時に出ています。営業から下の段で、営業外の項目がプラスに効いたためです。どちらか片方だけを見ると、逆の印象になります。
防衛2社の売上を前年と比べた横棒グラフ。Kratosは2026年4-6月が458.8で前年同期351.5、AeroVironmentは2026年4月期が1976.8で前年820.6
濃い棒が直近、薄い棒が前年の同じ期間です。Kratosは四半期、AeroVironmentは通年なので、2社の棒の長さを直接比べることはできません。それぞれの前年との差を見てください。

AeroVironment: 売上2.4倍、営業赤字3億ドル超

AeroVironment は決算期が4月末です。2026年4月期(2025年5月〜2026年4月)は、2026年6月29日にSECへ出た年次報告書(Form 10-K)にまとまっています。

AeroVironment 2026年4月期 2025年4月期 変化
売上 1,976.8 820.6 約2.41倍
売上総利益 500.6 318.6 約1.57倍
研究開発費 127.7 100.7 約1.27倍
営業損益 −311.0 40.8 赤字へ
純損益 −265.1 43.6 赤字へ

売上は2.41倍ですが、売上総利益は1.57倍しか増えていません。年次報告書の表では、粗利率は25%。前年は39%でした。売上原価が194%増えており、その内訳として同社は、製品原価の増加554.9百万ドルのうち345.0百万ドルがBlueHaloとESAeroの買収によるもの、66.2百万ドルがその買収に伴う無形資産の償却だと書いています。サービス原価も419.3百万ドル増えました。BlueHaloの買収後、売上に占めるサービスの割合は高いままになる見込みだとも述べています。

そして赤字の中身です。年次報告書によると、のれんの減損240.7百万ドルは全額が宇宙(Space)部門のものです。理由もはっきり書かれています。Space Force が、SCARプログラム向けのBADGERフェーズドアレイアンテナの納入契約を取り消す決定をしたため、同部門の業績見通しが下がった、と。

この契約には以前から作業停止命令(stop-work order)が出ており、2026年3月に顧客側が「都合による解除」で契約を終了しています。命令が解けて再開する道もあったところが、終わりました。

なお、前年(2025年4月期)にも無人地上車両(UGV)部門で18.4百万ドルの減損が出ています。前年の営業黒字40.8百万ドルは、その18.4百万ドルを引いたあとの数字です。

防衛2社の営業損益を前年と比べた横棒グラフ。Kratosは2026年4-6月が−1.6で前年3.7、AeroVironmentは2026年4月期が−311.0で前年40.8
0の線から左がマイナスです。2社とも、前年は右側(黒字)にいました。棒の長さの差がそのまま、2つの赤字の性格の違いでもあります。
ソラソラ
作業停止命令って、そんなに簡単に出るものなの?
インキーインキー
出るときは出る。防衛は顧客が政府ひとつだから、その一社の都合で止まると代わりの売り先がない。受注残が積み上がっていても、それは「止まらない」という保証ではないんだ。この240.7百万ドルは、その現実がそのまま数字になったもの。

2つの赤字は、性格が違う

同じ「営業赤字」でも、読み方は分けたほうがいい。

  • Kratos の−1.6は、売っている量が増える途中で費用が先に出ている形です。売上総利益は売上より速く伸びており、研究開発も1.33倍に増やしています。生産設備を増やしている最中の会社の決算に、よく出る形です。
  • AeroVironment の−311.0は、その大半(240.7)が過去に払った買収代金の評価を下げたものです。現金が出ていく赤字ではありません。ただし「その値段では取り返せない」と自分で判断した記録でもあります。しかも今回は、判断のきっかけが自社の見込み違いではなく顧客による契約の取り消しでした。

どちらも「防衛は伸びている」という話とは矛盾しません。売上は実際に伸びています。矛盾していないからこそ、伸びの話だけを読むと、この2つは見えないということです。

アナリストは何を聞いているか

ここも「誰がどう言ったか」だけを書きます。当サイトは銘柄の推奨も目標株価も出しません。

  • Kratos の決算説明会では、Baird の Peter Arment 氏がドローンの生産能力(Valkyrie と、台湾向けの Mighty Hornet)について確認を求め、同社は新しい施設によって生産レートが上がっていると答えています。
  • Clear Street のアナリストは、Valkyrie の EBITDA マージンを国内10〜15%、海外15〜20%と見込んでいます。
  • Kratos の無人システム部門(KUS)の四半期売上は79.1百万ドルで、Valkyrie 関連を中心に8.1%のオーガニック成長でした。

質問が生産能力に集まっているのは示唆的です。受注は取れている前提で、作れるかどうかが論点になっているということですから。

よくある疑問

Q. 2社の数字を並べて比べていいですか

売上や利益の絶対額を直接比べるのは避けてください。決算期が違います(Kratos は12月期、AeroVironment は4月末)。この記事でも、Kratos は四半期、AeroVironment は通年です。比べられるのは「それぞれの前年同期からの変化」までです。

Q. どこで確認できますか

数字は Kratos の2026年6月期 四半期報告書(Form 10-Q)AeroVironment の2026年4月期 年次報告書(Form 10-K) から取りました。受注残と見通しは Kratos の2026年8月4日の発表です。減損の理由と内訳も、上の年次報告書の中に書かれています(「Impairment of Goodwill」の項)。

Q. 投資判断に使えますか

使えません。ここにあるのは提出書類の数字と、公表された出来事と、他社のアナリストの発言だけです。当サイトは売買の判断を書きません。

次に見る場所

この2社を追うなら、次の四半期で見る場所は決まっています。Kratos は営業損益が0を上に抜けるか。AeroVironment は粗利率が25%からどこまで戻るか。売上の伸びはどちらも当面続く見込みなので、そこを見ても差は出ません。

同じ読み方は宇宙のほうでもしています。Rocket Lab|打ち上げは増え、Neutronは遅れたでは、売上が1.6倍でも赤字が縮んだだけ、という別の形を扱いました。伸びている数字の下で何が起きているかは、会社ごとに違います。

期間の取り方そのもので結論が反転した例も残しています。量子4社|直近四半期で向きが逆になったでは、年次で見ると減収だった会社が、直近の上期では逆の側にいました。どの期間を切り取るかは、分析する側の選択です。

Kratos の次の四半期報告は11月前後、AeroVironment は9月前後です。取り消されたBADGERの穴を、宇宙部門が何で埋めるか。数字より先に、そこを見ることになりそうです。

この記事を書いた人
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YA

某メーカーで働く30代、1児の親です。2025年10月から、米国企業の企業分析を個人で続けています。肩書きはありません。証券会社でも調査会社でもないので、銘柄の推奨も、目標株価も、買い時・売り時も書きません。書けません。

やっていることは、わりと地味です。量子・宇宙・防衛の3分野について、各社がSECに出した書類の数字と、その日のニュースと、アナリストがどう言っているかを並べて、「で、いまどこにいるのか」を日本語に直す。英語の原文はいいことも悪いことも同じ顔で書いてあるので、その温度差ごと訳すのがこのサイトの役目だと思っています。

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