・Infleqtion が2026年9月24日、80個の物理量子ビットから30個の論理量子ビットを作り、その30個すべてを1つの状態にもつれさせたと発表
・方式は中性原子——電気を帯びていない原子をレーザーで捕まえて並べる。同社は商用システムでこの規模に達した最初の中性原子企業だとしている
・使った論理操作はAIに探させて見つけたもので、必要な物理ゲートが従来の半分
・束ね方は [[8, 3, 3]] 符号——8個の物理に3個の論理を詰め、誤り1個ぶんの強さ。この数字は報道発表ではなく、同じ日の投資家向け資料に書かれている
・ロードマップは2028年に100、2030年に1,000論理量子ビット(いずれも会社の見通し)
量子計算機の発表は、ふつう物理量子ビットの数で来ます。量子ビットは、0と1が重なった状態を保てる計算の単位です。その数が256、1,000、1万と並びます。ところが Infleqtion が9月24日に出したのは、論理量子ビットの数でした。30個。そして、それを作るのに使った物理量子ビットが80個だと書いてあります。
論理量子ビット——複数の物理量子ビットを束ねて、1個ぶんとして使えるようにしたものです。物理量子ビットは周りの熱や振動でかんたんに乱れるので、そのまま長い計算には使えません。何個かをまとめて1個として扱い、1個が乱れても全体としては答えが崩れないようにする。この束ね方を誤り訂正と呼びます。
![物理量子ビットを束ねて論理量子ビットを作る仕組みの図。左はばらばらの物理量子ビットで、1個が乱れると計算が崩れる。右は同じ量子ビットが囲みの中にまとまっており、1個が乱れても計算は続く。副題に使われた符号が8個の物理に3個の論理を詰める[[8,3,3]]であること、下に80物理量子ビットから30論理量子ビットという数字を記載](https://inky09-18.com/wp-content/uploads/2026/09/ronri-tabaneru.png)
発表の中身
Infleqtion(NYSE: INFQ)はコロラド州を拠点に、量子計算機のほか量子の光学時計・RF受信機・慣性センサーを作っている会社です。方式は中性原子——電気を帯びていない原子をレーザーの光で捕まえ、狙った場所に並べて計算に使います。
今回発表されたのは、同社の Sqale というプラットフォームで30個の論理量子ビットを作り、そのすべてを1つのまとまった状態にもつれさせたという結果です。使った物理量子ビットは80個。会社は商用システムで30論理量子ビットに達した最初の中性原子企業だとしています(他社を当サイトで調べて確かめたわけではないので、会社の主張として読んでください)。
実験は約1,000回の物理操作からなり、会社はこれを1 KiloQuOpと呼んでいます。確認は、雑音より約1,000倍強い信号として得られたとされています。測定の条件は発表文に書かれていません。
80と30の比が、いちばんの読みどころ
ここが今回いちばん引っかかる数字です。80個の物理量子ビットから30個の論理量子ビット。単純に割れば1個あたり2.7個ぶんです。
誤り訂正の話では、ふつうもっと大きな比が出てきます。暗号を破る規模の見積もりでは、論理1個を支えるのに物理が数百から数千という桁になる。IonQ|2026年Investor Dayの発表内容まとめで扱った資源見積もりも、論理と物理のあいだに大きな開きがありました。
答えは、同じ日に出たもう一方の資料に書いてあります。報道発表(EX-99.1)には無いのですが、同じ8-Kに添付された投資家向けの資料(EX-99.2)に、使った符号の名前が明記されています。[[8, 3, 3]]。
[[8, 3, 3]] なら、8個の物理量子ビットに3個の論理量子ビットを詰め込み、距離は3。符号距離は束ね方の強さを表す数で、距離3なら誤り1個を直せる、というのが符号理論の一般的な読み方です。
ここで割り算が合います。8個で3個ぶんなら、10組そろえれば80個の物理量子ビットで30個の論理量子ビット。発表されている数とぴったり一致します(10組という数え方は当サイトの整理で、資料に「10組」と書かれているわけではありません)。
つまり比が小さいのは、束ね方が軽いからです。暗号を破る規模の見積もりに出てくる数百対1という比は、はるかに強い符号——もっと多くの誤りに耐える束ね方——を前提にしています。同じ「論理量子ビット」という言葉でも、どの符号で束ねたかによって強さがまるで違う。
言い換えると、30という数字だけでは強さが分からないということです。論理量子ビットは「何個あるか」と「どの符号で束ねたか」の2つで性格が決まります。今回はその両方が出ていました——ただし片方は報道発表ではなく、投資家向けの資料のほうに。
AIが見つけた操作で、ゲートが半分になった
もう一つ、発表文が具体的に書いている点があります。30個をもつれさせるのに使った論理量子ビット間の新しい操作は、GPT-5.6 Sol を使って発見したものだ、と。
効いたのは数です。同じ働きをする操作が、従来知られていたものの半分の物理ゲートで済むようになった。CTO 兼 Computing 部門ゼネラルマネージャーの Pranav Gokhale は、ゲートを1つ通すたびに誤りが入りうるので、同じ仕事を少ないゲートで終えられることが長い計算では効いてくる、と説明しています。
この形は、当サイトが少し前に扱った話と重なります。IonQ|AIで量子回路の生成を高速化した共同研究も、AIに回路の組み方を探させる研究でした。量子計算機そのものではなく、その使い方を探す側にAIが入ってきている。2件が別々の会社から出ているので、これは1社の工夫というより流れだと見てよさそうです(並べたのは当サイトの整理です)。
中性原子方式は、原子を動かせる
方式の話も押さえておきます。量子ビットの作り方は会社ごとに違い、得意不得意もそこで決まります。イオントラップは電気を帯びた原子を電場で宙に浮かせる方式、超伝導は極低温まで冷やした電子回路をチップに作り込む方式です。
| 方式 | 何を量子ビットにするか | 捕まえ方 |
|---|---|---|
| イオントラップ | 電気を帯びた原子(イオン) | 電場で宙に浮かせる |
| 中性原子 | 電気を帯びていない原子 | レーザーの光で捕まえる |
| 超伝導 | 極低温の電子回路 | チップに作り込む |
Infleqtion が強調しているのは、Sqale が原子の並びを動的に組み替えられることです。原子を移動させると誤りがたまったり原子そのものを失ったりしますが、個々の原子を狙って操作する仕組みと組み合わせることで、それを抑えながらどの量子ビットとも直接やり取りできる状態を保っている、という説明です。
この「どの相手とも直接つながる」という性質は、イオントラップ方式でも同じことが言われています(IonQ|イオントラップ方式とは?超伝導との違いで扱いました)。配線でつながれた超伝導方式との差がここに出る、という主張の立て方が2方式で共通しています。
顧客は3社。1社は創薬の研究
発表文は、Sqale で論理量子ビットの回路を使っている顧客が3社あると書いています。名前が出ているのは Wellcome Leap の Quantum for Bio というプログラムで、GPU で学習させ QPU(量子側)で推論する形の量子ニューラルネットワークを使い、バイオマーカーの探索に取り組んでいます。
この研究は12論理量子ビットで最初に実証され、今回の30へそのまま続いた、とされています。数字の刻みが具体的で、実験室の一発勝負ではなく積み上げの途中だと分かるのがこの部分です。
ほかに、米国の国防機関(発表文の表記は U.S. Department of War)・NASA・英国政府が同社の装置を使っていること、NVIDIA との複数の協業があることが書かれています。NVIDIA との協業では論理量子ビットを使った材料科学の応用を世界で初めて実証した、というのが会社の説明です。
いま確かめられること、まだ確かめられないこと
| いま確かめられる現在地 | 会社が置いている見通し | 答え合わせの時期 |
|---|---|---|
| 80物理量子ビットで30論理量子ビットをもつれさせた(会社の発表) | 2028年に100論理量子ビット | 2028年、または途中経過の発表 |
| 論理操作をAIで発見し、物理ゲートが半減した | 2030年に1,000論理量子ビット | 2030年 |
| 論理量子ビット回路の顧客は3社。うち1社は創薬の研究 | 実務で解けない問題を解ける機械を届ける | 顧客側の成果が名前つきで出たとき |
よくある疑問
今回の発表に「これが解けるようになった」という記述はありません。書かれているのは、30個をもつれさせた回路を実行できたことと、顧客3社が論理量子ビットの回路を使っていることです。できることの範囲は、この発表からは決まりません。
数え方が違うので、そのまま比べられません。1万のほうは物理、30のほうは論理です。束ねる前と後の数なので、比べるなら同じ単位に揃える必要があります。今回は符号が [[8, 3, 3]] と分かっているので、30論理を支えている物理は80個だと言えます。ただし IonQ の1万のほうは、どの符号で何個の論理になるかが示されていません。揃えられるのは片側だけです。
そう述べているのは会社です。当サイトとして方式の優劣を判定できる材料はありません。方式ごとの得意不得意はIonQ|イオントラップ方式とは?超伝導との違いで整理しました。誤り訂正には量子側だけでなく古典側の計算も要る話はIonQ|誤り訂正デコーダーをCPU1個で実演で扱っています。
数え方が変わりはじめている
この発表を1行にすると、量子計算機の数え方が物理から論理へ移りはじめたということになります。物理の数は増やせば増えますが、増やしただけでは長い計算は完走しません。論理の数は、束ねた結果として残る使える数です。
ただし、論理の数を出すならどれだけ強く束ねたかも一緒に出さないと、比べようがない。今回はその両方が出ていました——ただし符号の名前が載っていたのは、報道発表ではなく投資家向けの資料のほうです。数だけを読むと、強さの話を置き去りにします。
主な提出書類の対象期間末: 2026-09-24(記事はこれより新しい発表も扱います。日付は本文に書いています)
- 臨時報告 Form 8-K(2026年9月24日 提出)https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/2007825/000162828026063328/infq-20260924xexx991.htm
- 臨時報告 Form 8-K(2026年9月24日 提出)https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/2007825/000162828026063328/infq-20260924xexx992.htm
数値は上記の原文から取っています。当サイトは特定銘柄の推奨・目標株価・売買の判断を書きません。








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