・2026年10月1日、D-Wave がゲート方式のシミュレータのベータを始めた。実機ではない
・シミュレータ自体も一般公開の前で、早期アクセスの参加者として4者の名前が出ている
・シミュレータの入口として発表が挙げるのはLeap と Ocean
・売り文句は「規模が大きくなるほどハードウェアの負担が大幅に小さい」。ただし発表に倍率は1つも書かれていない
・実機の時期も台数も書かれていない。今日の発表からは売上の動きが読み取れない
D-Wave は、量子コンピュータを商品として売った最初の会社だと自社で名乗っています。ただし売ってきたのはアニーリング(答えの候補を少しずつ落ち着かせて最適解を探す方式)の機械で、もう一方のゲート方式(量子ビットの線に操作を順に並べて計算する方式)については、2026年1月20日に Quantum Circuits を買収し、dual-rail という量子ビットの作り方を加えて自社のゲート方式の力を強める狙いだ、と四半期報告書に書いています。その会社の成り立ちはD-Wave|どんな会社?で整理してあります。
そのゲート方式について、今日わかったものは機械ではありません。機械を使う練習台です。
正直に言うと、「D-Wave がゲート方式で何か出した」と知った時点で、私が思い浮かべたのは実機でした。中身はシミュレータで、しかも一般公開の前。拍子抜けした、というのが本音です。

今日出たものは何か
D-Wave は10月1日、ゲート方式の量子計算シミュレータのベータプログラムを始めました。シミュレータとは、量子の機械がどう動くかを普通の計算機の上で再現する道具のことです。実機を使わずに、プログラムの書き方や誤りの扱い方を先に試せます。
注意して読むべきなのは、発表文が「一般公開に先立って」と書いていることです。シミュレータそのものも、まだ誰でも使えるものではありません。いま使えるのは選ばれた参加者だけで、名前が出ているのはBBVA、FirstQFM、フロリダ・アトランティック大学、ユーリヒ・スーパーコンピューティングセンターの4者です。
発表文には4者それぞれの声が載っています。並べると、金融の具体的な用途を挙げているのは BBVA だけです(ポートフォリオ最適化、不正検知、デリバティブ評価。いずれも「支えうる」という仮定の形で書かれています)。残る3者が触れているのは、誤りの信号をどう扱うか、量子機械学習の頑健性、学生に何を触らせるか、どんな知見を返せるか。当サイトの読みでは、道具と人の話に寄っています。発表文自身も参加者を「商業と研究の組織」とまとめていて、4者を「選ばれた顧客」と呼びます。金額の記載はありません。
なぜ機械より先に道具が出るのか
順番が逆に見えることには、利点があると私は見ています。実機が出るより先に、その機械で動くプログラムを書く人を育てられるからです。dual-rail の技術が加わったのは2026年1月で、D-Wave の既存の顧客はアニーリングを使ってきた人たちです。実機が出た日に「さあ使ってください」と言われて、すぐ書ける人がどれだけいるか——私はそこが薄いと見ています。
もう一つ、発表文のなかで見落としやすい一文があります。シミュレータへの入口がLeap と Oceanだと書かれていることです。Leap は D-Wave のクラウドサービス、Ocean はプログラムを書くための開発キットで、発表文はこの2つを入口として名指ししています。
少なくともシミュレータについては、別の入口を用意していません。既にある Leap へ流し込む形です。ただし同じ発表は、シミュレータと将来の実機を組み合わせた開発バンドルという新しい売り方も予告しています。実機の価格や条件は、まだ書かれていません。
会社は「シミュレータと将来のゲート機、それに導入の支援を組み合わせた開発バンドル」を用意する計画だとも書いています。ここから先は当サイトの読みです。既存顧客の中からゲート方式の客を作るのがいちばん近い道で、入口を増やさない順番はそれに合っています。いま触れるのは選ばれた参加者だけなので、これはまだ設計の話です。
dual-rail とは何か
シミュレータが再現するのは、dual-rail(デュアルレール)と呼ばれる超伝導の量子ビットの作り方です。発表文はこれを「誤り検出を活かして、規模が大きくなるほどハードウェアの負担を大幅に小さくする設計」と説明しています。
仕組みは名前のとおりです。レールを2本用意して、そこに光(マイクロ波の光子)を1つだけ置く。どちらのレールに光があるかで0と1を表します。以下の説明は発表文にも提出書類にも書かれていません。dual-rail という方式について一般に知られている内容を、当サイトで図にしたものです。

ここが効いてくるのは3段目です。光がどちらのレールにも無い状態が観測されたら、それは「誤りが起きた」という知らせになります(この形で気づけるのは主に、光子が失われる型の誤りです)。ふつうの量子ビットでは、0と1のどちらかが返ってくるだけで、その答えが壊れているかどうかは外から分かりません。
誤り訂正(計算中に起きた誤りを見つけて直す仕組み)は、まず誤りを見つけるところから始まります。見つける仕事をハードウェアの作り方そのものに持たせておけば、後段で使う量子ビットの数を減らせる——というのが「負担が小さい」の理屈だと当サイトは理解しています。発表文はそこまでの説明を書いていません。
会社は、この設計の土台になる部分がNature の査読論文で検証されたとも書いています。内容は「誤り検出の利点を保ったまま、速くて精度の高い2量子ビットのもつれ操作ができた」というもの。当サイトは論文そのものを開いていませんので、ここは会社の紹介としてお読みください。
売上の区分には、まだ行が無い
D-Wave|どんな会社?では、この会社を追うときの判断材料として、四半期の売上の内訳に新しい行が出るかどうかを挙げました。今日の発表から、その行が動いたとは読み取れません。金額が書かれておらず、売上の区分にもゲート方式の行はまだ無いからです。
2026年6月期の四半期報告書を開くと、売上の区分は機械の販売/クラウド利用/専門サービス/その他の4つで、ゲート方式という区分はありません。買収した Quantum Circuits の売上は注記で別に書かれていて、1月20日から6月30日までで25万ドル。上期の連結売上593万4千ドルの約4%にあたります。区分としては立っていないが、金額はゼロではない——ここは分けて読む必要があります。
つまり今日あったのは、会社が「重要な節目」と呼ぶ出来事の発表であって、売上の発表ではありません。この2つは混ぜて読まれやすいので、分けておきます。
冒頭で拍子抜けしたと書きましたが、順番を見ているうちに、拍子抜けするほうが間違っている気がしてきました。実機を出してから使い手を探すより、先に書き方を覚えた人を作っておくほうが、売れ始めるまでが短い。1月に技術を加えて、今日外へ出たのが「人を育てる道具」だった——私はこれをうまい順番だと思います。もっとも、それが売上の行に出るのはまだ先で、いま注記の奥にあるのは25万ドルという数字だけです。
「ゲート方式」という言葉から受ける印象と、その中身が別のものを指している——この形なら、量子4社を同じ期で並べた量子4社|2026年4-6月期の決算を比較でも出てきます(あちらは倍率の中身が4社とも別だった、という話です)。
いま確かめられること、会社が置いている約束
発表文と四半期報告書に書いてあることを、確かめられる度合いで3つに分けます。
| いま確かめられる | 会社が置いている約束 | 答え合わせの時期 |
|---|---|---|
| シミュレータのベータが始まった(10月1日) | 一般公開する | GAの告知が出るか(発表に日付なし) |
| 参加4者の名前が出ている | 開発バンドルを用意する | 価格と中身が公表されるか |
| 入口は Leap と Ocean | 規模が大きくなるほど負担が小さい | 倍率が数字で示されるか |
| 売上の区分にゲート方式の行は無い | ゲート方式の実機を出す | 四半期の売上の内訳に行が増えるか |
検証できるのは左の列だけです。真ん中は会社の言い分で、いま確かめる方法はありません。判断を早める材料があるとすれば、次の3つでしょう。①ベータ参加者からの発信が「参加します」から「こう動いた」に変わるか。②開発バンドルに価格が付くか。③四半期の売上の内訳に、アニーリング以外の行が立つか。どれも、出れば外から見える形のものです。
よくある疑問
A. 要ります。シミュレータは普通の計算機の上で量子の振る舞いを再現するものなので、規模が大きくなるほど再現に時間がかかります。練習と設計には使えますが、量子の機械でしか現実的な時間で解けない問題を解くためのものではありません。
A. 発表文にそう読める記述はありません。自社の紹介では「両方を提供する唯一の会社」という言い方を通しており、アニーリングの機械は第6世代が稼働してクラウドから売れています。
A. 使えません。当サイトは推奨銘柄・目標株価・売買の判断を書きません。書いているのは、一次資料に何が書かれていて、何が書かれていないかまでです。
まとめ
今日の発表で動いたのは、ゲート方式の道具の層です。実機について会社は「今後」としか書いておらず、シミュレータも一般公開の前。出てきた名前は4者で、金額も、負担の小ささを示す倍率も、実機や一般公開の時期も書かれていません。
それでも、シミュレータの入口を Leap と Ocean に揃えてあることは読み落とせません。当サイトの読みでは、いまある Leap へ新しい方式を流し込む形です。会社の形そのものはD-Wave|どんな会社?に整理してあります。
練習台が先に置かれた机の上に、実機はまだ載っていません。会社が書いているのは「今後」の一語です。
主な提出書類の対象期間末: 2026-10-01(記事はこれより新しい発表も扱います。日付は本文に書いています)
- SEC提出書類https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1907982/000190798226000159/exhibit101d-wavelaunchesga.htm
- SEC提出書類(2026年10月1日時点)https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1907982/000190798226000159/qbts-20261001.htm
- 四半期報告書 Form 10-Q(2026年6月期)https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1907982/000190798226000129/qbts-20260630.htm
数値は上記の原文から取っています。当サイトは特定銘柄の推奨・目標株価・売買の判断を書きません。








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