Rocket Lab|Electron 20機の打ち上げ契約

Rocket Lab|Electron 20機の打ち上げ契約 宇宙

見出しの「20機」で目が止まりました。小型ロケット Electron を20回、まるごと1社のために飛ばす契約です。Rocket Lab にとって単一の顧客と結んだマルチローンチ契約としては、過去最大になります。

そう思って発表文を開いたら、打ち上げは2028年から2031年と書いてありました。いまから1年以上先です。正直に言うと、いったん拍子抜けしました。

先に結論
・相手は日本の小型SAR衛星企業 Synspective。Electron による 20機の専用打ち上げのマルチローンチ契約
・打ち上げ時期は 2028年〜2031年。Synspective 史上最大。Rocket Lab が単一の顧客と結んだマルチローンチ契約としても最大規模
・両社の契約は累計47機になり、34機がこれから飛ぶ(すでに13機の打ち上げに成功)。うち14機は今回より前の契約で、時期は発表文に書かれていない
・Rocket Lab の受注残は6月末で 2,355.9百万ドル。うち打ち上げが 940.2。今回の20機が入っているかは、締結日しだい(締結日は発表文に書かれていない)
・打ち上げ事業は四半期の売上では19%、受注残では40%。見る場所で重みが倍ちがう
ソラソラ
20機ってすごく多そうだけど、2028年からって遅くない?
インキーインキー
遅く見えるよね。ただこの20機とは別に、前からある契約が14機ぶん残ってるんだ。いつ飛ぶかは発表文には書かれてない。そのうえで9月18日には、三菱重工のH3でも2機ぶん契約したと発表してる。これから飛ぶ枠が、14機・20機・2機の3つに分かれてる、と読むと見え方が変わる。
Synspectiveの打ち上げの預け先を4段に積んだ図。①Rocket Labがすでに打ち上げた13機。②今回より前の契約でまだ飛んでいない14機、打ち上げ時期は発表文に書かれていない。③2027年にH3(三菱重工・種子島)で2機、これは別契約で34機には含まない。④2028〜2031年にElectronで20機の専用打ち上げ。①②④の合計が47機で、これから飛ぶのは34機
買う側から見た図です。Rocket Lab との契約で、これから飛ぶのは34機。今回の契約はそのうちの20機(④)で、残る14機(②)は時期が発表文に書かれていません。

契約の中身

発表したのは買う側の Synspective で、日本時間の10月1日です。Rocket Lab 側は現地9月30日に「Electron として過去最大の商業契約」という見出しで出しています。

Synspective は小型のSAR衛星「StriX」を作って飛ばし、そのデータを売っている会社です。SARは合成開口レーダーの略で、自分で電波を出して跳ね返りを撮る方式のこと。カメラと違って光が要らないので、夜でも雲の下でも地表が見えます。災害対応や安全保障で使われるのはそのためです。

契約の条件で、発表文に書いてあるのは次のところです。

20機の「専用」打ち上げ/Electron/2028年〜2031年に実施予定/Synspective 史上最大の打ち上げ契約/Rocket Lab が単一の顧客と結んだマルチローンチ契約としても最大規模
これで両社の契約は累計47機、うち34機が今後の打ち上げ。すでに13機の打ち上げに成功している

マルチローンチ契約というのは、複数回の打ち上げをまとめて買う形です。買う側は枠を押さえられ、売る側は生産計画を立てやすくなります。Synspective はこれで「2030年代初頭までの打ち上げ機会を確保した」と書いています。

金額は、Synspective の発表文には出ていません。推定で埋めるのはやめておきます。ただし Rocket Lab の提出書類には1回あたりの数字が載っているので、桁の見当はつきます。

「専用」であることの意味

見落とされやすいのが「専用(dedicated)」という一語です。小型衛星をロケットに乗せる方法は大きく2つあり、値段も自由度もまったく違います。

専用打ち上げと相乗りの違いを2段に積んだ図。相乗りは1機のロケットに複数社の衛星を積み、行き先も時期も最大の積荷に合わせる。専用はロケット1機を1社が使い、軌道も時期を自分の計画に合わせやすい
相乗りは安いかわりに、行き先と時期が主たる積荷に従います。20機が「専用」だというのは、20回ぶんの打ち上げを、自分の計画に合わせやすい形で買ったということです。この2つの違いは当サイトによる一般的な説明です。

Rocket Lab の CEO は、Synspective の発表文の中でこう言っています——「衛星コンステレーションを構築する事業者が、自らの計画を主体的にコントロールしたいと考えたとき、選ばれるのが Rocket Lab です」。会社の自己評価ですが、何を売りにしているつもりなのかは、はっきり書いてあります。

買う側の Synspective も、9月18日の別の発表で意味の近い言い方をしています。三菱重工とH3ロケットで StriX 2機を打ち上げる契約について、「宇宙アクセスにおける戦略的自律性を確立するための重要な決断」と書いている。こちらは2027年、種子島から中傾斜軌道へ。JAXA の宇宙戦略基金に採択された事業です。中傾斜軌道は、極を通らず赤道寄りを斜めに回る軌道で、アジア太平洋のような人の多い帯を繰り返し通ります。

この20機は、Rocket Lab のどの数字に乗るのか

ここからは売る側の話です。会社が何を売って誰に売っているかはRocket Lab|どんな会社?にまとめてあるので、以下は決算の数字だけを見ます。6月30日締めの四半期報告書(Form 10-Q)から取りました。単位は百万ドルです。

まず受注残——契約は済んでいるけれどまだ仕事をしていない分、つまりこれから売上になる予定の残高です。

Rocket Labの打ち上げ事業の重みを2段に積んだ図。四半期の売上に占める割合は19パーセント(打ち上げ44.6/全体234.1百万ドル)、受注残に占める割合は40パーセント(打ち上げ940.2/全体2355.9百万ドル)。今回の20機が受注残に入っているかは締結日しだい
同じ事業なのに、売上で見ると2割、注文で見ると4割です。打ち上げは、損益計算書より先に受注残のほうで大きくなっています。

受注残は2025年12月末の1,847.3から、6月末には2,355.9へ増えました。内訳は宇宙システムが1,415.8、打ち上げが940.2。全体のうち45%が12か月以内に売上になる見込みで、残り55%はその先です。

一方、同じ四半期(4〜6月)の打ち上げ事業の売上は44.6で、全体234.1の19.0%。前年同期比では4%の減少です。上期で見れば108.2(全体434.4の24.9%)で前年比32%増なので、四半期で減ったのは収益認識のタイミングによるもの、と会社は書いています。

では今回の20機は、この940.2に入っているのか。発表は現地9月30日でしたが、締結日は Synspective の発表文に書かれていません。6月30日より後に成立したのであれば、入っていないことになります。

ここからは当サイトの読み

金額が出ていないので、開示されている数字どうしで割ってみます。同じ10-Qに「上期の打ち上げ1回あたりの売上は9.2百万ドル(前年同期は7.5)、原価は4.9(同5.3)」と書いてあります。これを単純に20倍すると約184百万ドル。打ち上げの受注残940.2の2割ほどに当たる規模です。

ただしこの9.2は、HASTE(弾道飛行の試験用)の分も入っていると読める期間平均です。専用打ち上げ1回の値段ではありません。実際の契約額は発表文に出ていないので、ここは当サイトの概算です。桁を掴むための計算であって、契約額の推定ではありません。

そのうえで、私がこの契約でいちばん面白いと思ったのは金額ではなく、順番です。発表文の数字を引き算すると、Rocket Lab との契約でこれから飛ぶのは34機(累計47機−成功済み13機)。今回の20機はそのうちの2028年から2031年に当たる分で、残る14機は今回より前の契約です。時期は Synspective の発表文に書かれていません。そこへ2027年のH3が2機。手段を分けて、手前にも別の便を置いてある形です。自分で「戦略的自律性」と言っているとおりの組み方だと思います。

売る側から見ると、この契約が売上として立つのは打ち上げが行われてからです。先に乗るのは注文の側で、「売上では2割、注文では4割」というねじれの、注文のほうに積まれます(6月末の940.2に入っているかは、やはり締結日しだいです)。Electron は2026年の上期に12回飛んでいます(10-Q)。20機を4年かけて消化するなら、いまの飛ばし方からして無理のある数ではありません。作れる量ではなく、押さえた年のほうが情報です。

拍子抜けした、と冒頭に書きました。いまは少し違う見方をしています。2028年からというのは、遅いのではなく、手前が埋まっているということかもしれない。埋めている第一候補は、同じ Synspective の14機です。もっとも、これは私の読みであって、14機がいつ飛ぶのかも、2028年からにした理由も、Synspective の発表文には書かれていません。

ソラソラ
じゃあ、この20機は「決まった売上」ってこと?
インキーインキー
そこは慎重にいきたい。10-Q の受注残の説明に、打ち上げや衛星製造の契約には、顧客が事前の通知と所定の解約金の支払いによって行使できる解約権が付いているのが通例、と会社自身が書いてある。受注残は「約束」というより「いまのところ予定されている仕事」なんだ。

いま確かめられること、会社が置いている約束、答え合わせの時期

いま確かめられる現在地 会社が置いている約束 答え合わせの時期
両社の契約は累計47機・うち34機が未実施(発表文) 今回の20機を2028〜2031年に実施する 2028年の初回打ち上げ。残る14機の時期は発表文に無い
打ち上げの受注残は6月末で940.2百万ドル ——(締結日も契約額も発表文に無い) 9月末締めの四半期報告書で940.2がどう動くか
打ち上げ1回あたりの売上は上期9.2百万ドル ——(契約額は発表文に無い) 受注残の増え方から、間接的にしか見えない
Synspective は2027年にH3で2機(宇宙戦略基金の採択事業) 中傾斜軌道へ投入する 2027年の打ち上げ

判断を早める材料として、いちばん具体的なのは2段目です。打ち上げの受注残が940.2からどれだけ動くかで、この20機が入っているのか、入っているならいくらの値が付いているのかが、間接的に見えます。前の四半期の決算の読み方はRocket Lab|2026年上期決算とNeutronの進捗に書いてあります。

よくある質問

Q. 20機の契約額はいくらですか?
A. Synspective の発表文には出ていません。本文の約184百万ドルは、10-Qの「上期の打ち上げ1回あたりの売上9.2百万ドル」から桁を掴むために当サイトが計算したもので、専用打ち上げの実勢価格とは別物です。
Q. いつから売上になりますか?
A. 打ち上げの実施が2028年から2031年の予定なので、その期間に順次です。受注残には契約時点で載りますが、受注残は売上ではありません。
Q. 「専用」と「相乗り」はどう違いますか?
A. 相乗りは1機のロケットに複数の顧客の衛星を積む方式で、運賃は安いかわりに軌道と時期が主たる積荷に従います。専用はロケット1機を1社が使うので、軌道も時期も自分の計画に合わせやすくなります。今回の20機は専用です。
Q. Synspective はなぜ複数のロケットを使うのですか?
A. 理由は発表文に書かれていません。分かるのは、2027年にH3で2機、2028年から2031年にElectronで20機という組み方になっていることと、H3の契約について同社が「宇宙アクセスにおける戦略的自律性」という言葉を使っていることだけです。

まとめ

この契約で動いたものを一つに絞るなら、カレンダーの末尾です。2031年まで、Electron の枠が押さえられました。

売る側の Rocket Lab にとっては、単一の顧客と結んだマルチローンチ契約としては最大のものが、売上としてはまだ一行も表れないまま、手元にあることになります。打ち上げ事業は売上で2割、注文で4割。この会社の打ち上げは、いまも「これから飛ぶぶん」のほうが大きい事業です。

もっとも、20機という数字が大きく見えても、Rocket Lab との契約でこれから飛ぶ分は、数えれば34機あります。残りの14機がいつ飛ぶのかは、Synspective の発表文に書かれていません。

出典

主な提出書類の対象期間末: 2026-06-30(記事はこれより新しい発表も扱います。日付は本文に書いています)

数値は上記の原文から取っています。当サイトは特定銘柄の推奨・目標株価・売買の判断を書きません。

この記事を書いた人
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YA

某メーカーで働く30代、1児の親です。2025年10月から、米国企業の企業分析を個人で続けています。

やっていることは、わりと地味です。量子・宇宙・防衛の3分野について、各社がSECに出した書類の数字と、その日のニュースと、アナリストがどう言っているかを並べて、「で、いまどこにいるのか」を日本語に直す。英語の原文はいいことも悪いことも同じ顔で書いてあるので、その温度差ごと訳すのがこのサイトの役目だと思っています。

当サイトは銘柄の推奨・目標株価・売買のタイミングを書きません。

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