Google|どんな会社?

Google|どんな会社? 量子

Google が量子で出した直近の成果は三つあります。2025年10月の Quantum Echoes、2026年3月の暗号を解くのに要る規模の見積もり直し、2026年7月の較正を止めない制御。日付も中身もばらばらに見えますが、三つとも量子ビットを1個も増やしていません。量子ビットとは、0か1かではなくその両方が混ざった状態を持てる計算の最小単位のことです。

共通しているのは誤りの抑え込み、つまり計算の途中で崩れた情報を別の量子ビットを使って直す仕組みのほうです。並べた数ではなく、並べたそばから壊れていく誤りをどう抑え込むか。この会社が量子でやっていることは、そこに集約されます。——ただし、この三つを1つにまとめたのは当サイトの整理です。Google がこの形で並べて発表したわけではありません。

先に結論
・2025年10月「別の量子計算機で走らせても同じ値になる」計算を示した(Quantum Echoes)
・2026年3月、暗号を解くのに要る規模を見積もり直し、物理量子ビットの必要数がおよそ20分の1に
・2026年7月「較正のために計算を止めない」制御を実現。強化学習が走りながら調整し続ける
・当サイトの読み: 三つとも誤りの抑え込みに関わる話で、速さでも量子ビット数でもない
・暗号の見積もりは守る側を急がせるために公開されている(移行の期限として2029年)

速い、では足りなかった

2019年に話題になった量子超越の実験には、あとから見ると弱点がありました。やっていたのは乱数回路のサンプリングで、出てくるのはビット列です。同じ列は二度と出てきません。速さは主張できても、他人が別の機械で同じ答えを突き合わせる形にはなっていない——というのが当サイトの読みです。

2025年10月22日に Nature の表紙になった Quantum Echoes は、そこを正面から変えにいっています。測るのは OTOC と呼ばれる期待値で、時間を前へ進めてからまた戻すという操作を使います。期待値なので、別の量子計算機で走らせても同じ値になります。実験は Willow チップ上で、合計103量子ビットを使いました。

冷凍機の絵の横に「2019年 / 同じ列は二度と出ない」「2025年 / 別の機械でも同じ値」。下に「見せ場が速さから、確かめられることへ移った」
速さの記録は、他人が再現できなければ記録のままで終わります。取りにいったのは再現性でした。

実用の観点でも効きます。誰も検算できない計算は、答えが合っているかどうかを信じるしかない。薬の分子でも材料でも、答えを使う側は必ず確かめたがります。検証できる形にしておかないと、正しく速くても使われません。

較正のたびに、計算が止まっていた

2026年7月22日の成果は、地味に見えて壁を一枚抜いています。量子計算機は、動かしているうちに少しずつずれていくので較正が要ります。これまでは較正のたびに計算を完全に止めていました。

有用なアルゴリズムは数日から数か月、連続で走ります。途中で止まれば、そこまでの計算が無駄になる。つまり「長い計算ができない」のは量子ビットの数の問題ではなく、運転を続けられないという運用の問題でした。

新しい仕組みでは、強化学習のエージェントが誤り検出の結果を見ながら、数千個の制御パラメータを計算の最中に動かし続けます。誤り訂正のデコーダーは2種類で、実データで訓練した AlphaQubit と、アルゴリズム的な Tesseract。演奏を止めずに楽器を調律する、というのが Google 側の言い方です。

「これまで 計算 → 止める → 較正 → 再開」と「これから 止めずに較正する」を並べ、右にチップの絵を置いた図
誤りを減らすのではなく、誤りが出続ける前提で運転し続けるほうへ寄せています。
ソラソラ
止まったら困るのは分かるけど、そんなに大事?
インキーインキー
大事だよ。実験室の機械と、仕事に使う機械の分かれ目がそこなんだ。1分の実演なら止めて直せばいい。でも1か月走らせる計算を「毎日止めて直します」でやると、永遠に終わらない。連続運転ができて初めて、道具になる。

あと何台ぶん要るのか

三つのうち、いちばん外へ響いたのは2026年3月31日のものでした。256ビット楕円曲線離散対数問題——暗号通貨や多くの署名方式が土台にしている計算問題について、解くのに要る資源の見積もりが更新されています。

論理量子ビット1,200未満で Toffoli ゲート9,000万、あるいは1,450未満で7,000万。そして超伝導方式なら物理量子ビット50万未満で、数分で実行できるという見積もりが添えられました。従来比で、物理量子ビットの必要数がおよそ20分の1です。

この20分の1がどこから来たのか。Google が挙げているのはアルゴリズムを誤り耐性回路へ落とし込む(コンパイルする)やり方の、長年にわたる漸進的な最適化で、その延長線上だと書いています。機械が強くなったのではなく、同じ計算をより少ない部品で組めるようになったという話です。

Google Researchの三つの成果を縦に並べた図。2025年10月「確かめられるか」、2026年3月「どれだけ要るか」、2026年7月「止めずに走れるか」。いちばん下に冷凍機の絵と、「当サイトの読み」と断ったうえで「誤りをどう抑え込むか——どれも、1台を動かし続けるための仕事」
三つとも、量子ビットを何個並べたという話ではありません。誤りが出る前提で、その上に計算を成立させにいっている——というのが当サイトの読みです。

攻める側の見積もりを、守らせるために出す

読み違えやすいので、公開の意図に触れておきます。この見積もりは破れることを誇る発表ではありません。Google はゼロ知識証明を使って脆弱性を記述し、米政府と調整したうえで出しています。狙いは耐量子暗号(量子計算機が実用化しても破られにくいように作り直した暗号のこと)への移行を急がせることで、Google 自身が置いた期限として2029年を挙げています。

暗号の置き換えは、新しい機械を買う話ではありません。いま動いている通信と保存の仕組みに、後から差し込む作業です。Google が書いているのは、将来の量子計算機がいまの公開鍵暗号を破れるようになるという一般的な脅威までです。——ここから先は当サイトの読みです。移行が終わる前に保存された暗号文があとから解かれうるとすれば、保存期間の長いデータを抱える側から順に動くことになります。どの分野が先かまでは、出典には書かれていません。

ソラソラ
「ビットコインが破られる」みたいな見出し、見た気がする。
インキーインキー
そこは慎重にいこう。出たのは署名方式に対する計算の見積もりで、実機も攻撃も存在しない。しかも出した側は守らせるために出してる。破れると読むのと、移行を急げと読むのじゃ、やることが正反対になるよ。

同じ問題を、イオンの側から見積もった会社もあります。IonQ が2026年9月8日に出した数字と並べると、方式の違いがそのまま表に出ます。

同じECDLP-256について、IonQとGoogleが別々に出した見積もりの図。「論理量子ビット ほぼ同数」「物理量子ビット 約26倍の差」「所要時間 25.7日 と 数分」。下に「どちらの機械も、まだ存在しない」
論理の数はほぼ同じで、物理が約26倍、時間は桁で逆。前提は各社別で、どちらの機械もまだありません。

イオンは少ない数で足りるけれど遅く、超伝導は数が要るけれど速い。方式の違いを扱った記事で書いた性格が、この2行に数字として現れています。どちらも見積もりであって実測ではありません。誤り訂正の符号もハードウェアの仮定も各社で違うので、勝敗として読むと外します。

現在地から、到達できるのか

この会社は年号つきのロードマップを出していないので、確かめられることと見込みは自分で分ける必要があります。

いま確かめられる現在地 置かれている見込み 答え合わせの材料
Willow 上の103量子ビットの実験が査読を通った ベンチマーク回路の集合では古典を超える領域にある 別のグループの量子計算機で再現されるか
走らせたまま調律する仕組みが論文になった 数日から数か月、止めずに走らせる 連続運転の実績が、時間つきで報告されるか
資源の見積もりが20分の1に縮んだ 物理50万未満で数分 実機の物理量子ビット数が公表され、距離が測れるか
Google 自身が2029年の移行目標を置いた 耐量子暗号への置き換え 2029年。業界共通の締切ではない。移行の進み具合は外から測れる

右端でいちばん確かめやすいのは最終行です。暗号の移行は既存の設備に対する作業なので、進んだかどうかが外から見えます。上の3行は機械の話で、こちらは報告を待つしかありません。待つ位置と測れる位置を混ぜないほうがいいのは、そういう理由です。

もうひとつ、20分の1がもう一度縮むかどうかは分かりやすい合図になります。Google 自身は今回の縮小を、長年続いてきた漸進的な最適化の延長線上だと位置づけています。——当サイトの読みですが、それが続くなら、実機が追いつく前に距離のほうが縮んでいくことになります。

よくある疑問

Q. Google の量子への投資額はいくらですか。
A. 分かりません。セグメントとは会社が自分で切った事業の区分のことですが、Alphabet のそれは Google Services・Google Cloud・Other Bets の3つで、量子の行がありません。金額も人員も出ていないので、推定した数字は扱わないほうが安全です。

Q. Willow は何量子ビットですか。
A. 103という数字は Quantum Echoes の実験で使った合計です。チップの総数として確認できていないので、ここでは書きません。

Q. 物理50万未満なら、もうすぐ暗号が破られるのでは。
A. その規模の機械は存在しません。世に出ている超伝導の機械は桁がいくつも下です。見積もりは距離を測るための数字であって、予定日ではありません。

Q. IonQ と Google はどちらが進んでいますか。
A. この2つの見積もりからは決められません。前提が揃っていないので、読み取れるのは方式の違いがどう出るかまでです。

数を追いかけていると、この会社の仕事は地味に見えます。検算できる形にする、止めずに走らせる、要る規模を小さくする。どれも量子ビットを1個も増やしていません。それでも、誤りが出続ける前提で計算を成立させるという一点に、三つとも寄っている——というのが当サイトの読みです。

出典

主な提出書類の対象期間末: 2026-06-30(記事はこれより新しい発表も扱います。日付は本文に書いています)

数値は上記の原文から取っています。当サイトは特定銘柄の推奨・目標株価・売買の判断を書きません。

この記事を書いた人
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YA

某メーカーで働く30代、1児の親です。2025年10月から、米国企業の企業分析を個人で続けています。

やっていることは、わりと地味です。量子・宇宙・防衛の3分野について、各社がSECに出した書類の数字と、その日のニュースと、アナリストがどう言っているかを並べて、「で、いまどこにいるのか」を日本語に直す。英語の原文はいいことも悪いことも同じ顔で書いてあるので、その温度差ごと訳すのがこのサイトの役目だと思っています。

当サイトは銘柄の推奨・目標株価・売買のタイミングを書きません。

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