D-Wave が2026年10月13日、半導体の受託製造会社 SkyWater Technology との製造協業を複数年の契約に延ばすと発表しました。ミネソタ州の工場で10年以上続いてきた関係を、そのまま継続するという内容です。
この工場は、2026年7月31日から IonQ のものになっています。同じ量子計算機を売っている会社です。それなら「競合の工場に縛られないよう期間を固定したのだろう」と読みたくなるところで、私も最初はそう考えました。そう単純でもありませんでした。
・10月13日の発表は、D-Wave と SkyWater の複数年の製造契約。ミネソタ工場での協業を続ける
・その SkyWater を、IonQ が2026年7月31日に買収済み(対価は約18億ドル)
・ただし2025〜2027年の複数年の価格取り決めは、買収の前からあった(10-K の別紙10.25)
・新しい契約には知的財産を守る条項があると発表文が書いている
・10月13日の発表に、年数・金額・独占性は書かれていない(別紙の金額は黒塗り)
・発表文で IonQ の名前が出るのは、末尾の注意書きだけ

10月13日に発表されたこと
発表したのは SkyWater と D-Wave の両社です。ミネソタ工場のプロセス統合・製造チームとの協業を続け、D-Wave の技術ロードマップを支える、という形になっています。D-Wave 側が超伝導のプロセス設計と量子システムの設計を持ち、SkyWater 側が製造工程をひとつにまとめることや材料づくり、薄膜の形成を受け持ちます。
この協業で作られてきたのが Advantage2 のプロセッサです。SkyWater で製造された Advantage2 を使った研究が、2025年に Science に載っています。
工場の持ち主は、7月31日から IonQ
IonQ は2026年7月31日に SkyWater Technology の買収を完了しています。対価は約18億ドル、内訳は24,135,775株の普通株と7億4,130万ドルの現金(四半期報告書・2026年6月30日締めの注記21)。
つまり D-Wave がウエハー(半導体の薄い円板。ここに回路を焼きます)を発注している工場は、いま同じ量子計算機を売っている会社の持ち物です。IonQ はイオントラップ方式、D-Wave はアニーリングとゲート型の超伝導方式を扱います。買収そのものは当サイトでもIonQ|2026年通期見通しの上方修正を解説で扱いました。会社の成り立ちはIonQ|どんな会社?とD-Wave|どんな会社?にあります。
発表文の中で、その買収にいちばん近いところにある記述は本文ではありません。末尾の将来予想に関する注意書きです。そこで参照せよとされているのは「IonQ, Inc. の2025年の年次報告書と2026年6月30日締めの四半期報告書」のリスク要因で、更新義務を負わないのも IonQ とその経営陣だとされています。SkyWater の発表に IonQ の注意書きが付く——これが、工場の持ち主が変わったことを示すいちばんはっきりした一文です。発表の本文には、IonQ への言及も、SkyWater が IonQ の子会社だという説明もありません。
複数年の取り決めは、買収の前からあった
10-K の本文(2025年12月期)にある「半導体ライン操業契約」は、1年ごとに自動更新され、更新しない場合は6か月前の書面通知が要る。どちらの側も、1年前に書面で通知すれば都合による解除ができる——ここだけ読むと、たしかに1年刻みの関係に見えます。
同じ 10-K の別紙に、第17次修正が付いています。2025年3月31日に効力が生じたもので、冒頭にこうあります。両社は2025年・2026年・2027年の3暦年にわたる複数年の価格取り決めを、すでに結んでいた。第17次修正は、その financial terms を定め直すものです。
中身も期間の約束として具体的です。各年に最低利用額が設定され、下回った差額は D-Wave が支払う。価格は2027年12月31日で切れ、書面で別に合意しないかぎり2028年1月1日からは標準の商用料金に戻る。さらに、2025年12月31日までに SkyWater の標準の TaaS 契約をもとにした置き換え契約を結ぶよう、両社が誠実に努めるとあります。期限までに結ばれなければ、SkyWater はこの価格の提供をやめることを選べます。金額はすべて黒塗りです。
契約そのものの起点は2012年12月23日、Cypress Semiconductor と D-Wave Systems のあいだで結ばれたもので、のちに SkyWater へ引き継がれました。修正は第17次まで重ねられています。

発表が新しく見える理由
ここからは当サイトの読みです。10月13日の発表を単体で読むと、短い関係が長い関係に変わったように見えます。別紙を先に読んでいると、見え方が変わります。各年の最低利用額は約束として決まっていて、価格も条件つきで2027年まで置かれていた。契約を作り替えることも、誠実に努める取り決めとして書いてあった。今回の発表がその置き換え契約そのものなのかどうかは、どちらの資料にも書かれていません。もしそうなら期限から10か月ほど後になりますが、そこも書かれていません。
確実に変わったと言えるのは、工場の持ち主です。そのうえで D-Wave が公表したのは、継続と、知的財産を守る条項があるという事実でした。
IonQ は、顧客が離れる可能性を書いていた
IonQ は四半期報告書(2026年8月10日提出)のリスク要因で、買収について「顧客やサプライヤーなどを失う結果になりうる」「既存契約の終了につながりうる」と書いています。さらにこう続きます——「一部の顧客は、必要量のより大きな割合を1社から調達することを望まないかもしれない」。
この文書が出たのは買収完了の10日後です。その約2か月後に、SkyWater の顧客の1社が、離れずに継続を発表した——という順番になります。
D-Wave のアニーリングが、その工場の段取りを組んでいる
同じ発表文に、別件として面白い一節があります。今年、両社は D-Wave のアニーリング(たくさんの組み合わせの中から良い解を探す方式)を SkyWater の工場そのものの効率化に当てる実証をしました。保守の日程を組み直した結果、ロットの遅延が最大30%減りました。次の実証では、リソースの空き状況や技術者の制約、工場固有の制約まで含める予定です。
自社のチップを焼いている工場の段取りを、自社の量子計算機が組んでいる。その工場はいま競合のものです。
D-Wave の次の年次報告書と、IonQ の売上の区分
判断を早める材料があるとすれば、D-Wave の次の年次報告書で「半導体ライン操業契約」の記述がどう書き換わるかです。今回の発表が置き換え契約だったなら、1年ごとの自動更新を説明したあの段落は書き直されるはずで、新しい別紙が付く可能性もあります。もうひとつは、IonQ が受託製造の外部顧客向け売上を分けて出すかどうか。分けて出れば、工場が競合にも売り続けているかが数字で見えます。
気になるポイント
10月13日の発表には書かれていません。別紙には各年の最低利用額や料率の欄がありますが、数字は黒塗りです。独占的な取り決めかどうかは、どちらにも見当たりませんでした。
D-Wave はウエハーの製造に SkyWater のサービスを使っています。既存のファウンドリ(受託製造の工場)は現在の生産量より大幅に多くまで拡張できる、というのが自社の説明で、他の工場の名前は挙がっていません。
私が調べた範囲では、名指しの言及は見つかりませんでした。あるのは、買収で顧客を失いうるという一般的なリスク要因の記述だけです。
10月13日の前後で確実に変わったと言えるのは、その工場が誰のものかということです。契約のほうは、見出しが言うほどには変わっていないかもしれない——それを確かめられるとすれば、見出しではなく別紙のほうです。
主な提出書類の対象期間末: 2026-10-13(記事はこれより新しい発表も扱います。日付は本文に書いています)
- D-Waveの発表「SkyWater との製造協業を複数年契約へ」(2026年10月13日)https://www.dwavequantum.com/company/newsroom/press-release/skywater-and-d-wave-extend-quantum-manufacturing-collaboration-through-multi-year-agreement/
- SEC提出書類(2025年12月31日時点)https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1907982/000190798226000026/qbts-20251231.htm
- D-Wave 10-K 別紙10.25「半導体ライン操業契約 第17次修正」(2025年3月31日効力)https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1907982/000190798226000026/exhibit1025-amendment17tod.htm
- 四半期報告書 Form 10-Q(2026年6月期)https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1824920/000119312526341001/ionq-20260630.htm
数値は上記の原文から取っています。当サイトは特定銘柄の推奨・目標株価・売買の判断を書きません。








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