量子6社|DARPA Stage Cの顔ぶれと3億ドルの正体

量子6社|DARPA Stage Cの顔ぶれと3億ドルの正体 量子

2026年10月7日、DARPA(米国防高等研究計画局)の量子ベンチマーク計画(QBI)が、最終段階である Stage C に4組織が新たに進んだと発表しました。同じ日に IBM と IonQ もそれぞれ発表を出しています。

会社側の発表を読むと、目に入るのは「上限3億ドル」という数字です。ところがDARPA の計画ページを開くと、その3億ドルは Stage C の参加者が1社あたり受けうる上限として書かれています。IonQ 固有の条件ではなく、同じ段に居る各社に同じ上限が当てはまるということです。

先に結論
・Stage C に居るのは6社。Atom Computing・Diraq・IBM・IonQ・Microsoft・PsiQuantum
・今回新たに進んだのは4社(前の2社は前身計画 US2QC からの合流)
・6社とも違う道。中性原子/シリコンCMOSのスピン/モジュール型の超伝導/トラップイオン/トポロジカルな超伝導/シリコンのフォトニクス
・3億ドルは Stage C の上限(1社あたり)。Stage A は100万ドル、Stage B は1,500万ドル
・IBM の発表に金額は一言も出てこない。IonQ は上限額を見出しの位置に置いた
・DARPA は「勝者と敗者を決めるためではない」と明記。2024年半ばの開始以来、20社超を評価してきた
・2029年は両方の会社の発表に出てくるが、指しているものが違う
ソラソラ
3億ドルの契約を取った、ってニュースで見たけど。
インキーインキー
会社の発表だけ読むとそう見えるね。でも DARPA のページには「この段階の参加者は最大3億ドルまで交付されうる」と書いてある。1社あたりの上限が段ごとに決まっているんだ。桁が大きいのは、その会社が特別だからじゃなくて、段が上がったから。

Stage Cに居るのは6社

DARPAのStage Cに居る6社と方式を並べた図。Atom Computingは中性原子を並べる、Diraqはシリコン CMOS のスピン、IBMはモジュール型の超伝導、IonQはトラップイオン、Microsoftはトポロジカルな超伝導、PsiQuantumはシリコンのフォトニクス
6社とも違う道を選んでいる。並べたのは当サイトで、顔ぶれと方式の記載はDARPAの計画ページにある。

DARPA の発表によれば、新たに Stage C へ進んだのは Atom Computing(コロラド州ボルダー)、Diraq(オーストラリア・シドニー)、IBM(ニューヨーク州ヨークタウンハイツ)、IonQ(メリーランド州カレッジパーク)の4組織です。この4社が、前身のパイロット計画 US2QC を経てすでに Stage C に居た Microsoft と PsiQuantum に合流しました。

並べて目を引くのは、選んでいる道が1社ずつ違うことです。中性原子を並べるもの、シリコンCMOSの中の電子のスピンを使うもの、超伝導の回路をモジュールに分けてつなぐもの、電気を帯びた原子を電場で並べてレーザーで操るもの、トポロジカルな超伝導、そしてシリコンの上の光。ただし DARPA の記載を見ると、IBM と Microsoft はどちらも超伝導、Diraq と PsiQuantum はどちらもシリコンを使います。まったく別々というより、同じ素材から別の方向へ分かれている、と読むほうが近いでしょう。

DARPA は計画ページに「QBI は参加者どうしの競争ではない。DARPA は、資金の手当てがつくかぎり、あらゆる実行可能な方式を評価することに関心がある」と書いています。同日の発表でも「勝者と敗者を決めることを意図したものではない」と繰り返しています。選ぶ道がこれだけ分かれたまま同じ段に居ること自体が、その方針の実体だと当サイトは読みました。

計画ページの一覧には注記が付いています。載るのは「QBI と現に作業範囲を持っている会社」だけで、ある段の節目を終えた会社は、次の段の契約が出るまで一覧から外れます。つまりこの6社は「いま契約が生きている会社」であって、QBI を通過した会社の全体ではありません。

3億ドルは段に付いた上限

DARPAのQBIの段ごとの交付上限を示した図。いずれも1社あたりの上限で、Stage Aは100万ドルで実現の道筋がある構想を出す、Stage Bは1,500万ドルで計画・リスク・緩和策と試作機の計画、Stage Cは3億ドルで設計どおり作れ意図どおり動くかを検証する
いずれも1社あたりの「上限」。AからCまでで300倍になる。

DARPA の計画ページは、段ごとに交付の上限を書いています。Stage A は上限100万ドル、Stage B は上限1,500万ドル、そして Stage C が上限3億ドルです。1段上がるごとに15倍・20倍で、Stage A から Stage C まででちょうど300倍になります。

IonQ の発表にある「総額で最大3億ドルの契約」は、この枠と同額です(→IonQ|DARPA計画の最終段階と上限3億ドルの条件)。同社は初回の債務を超える資金は今後の歳出措置と DARPA の資金拠出しだいだと自分で書いており、上限と実入りが別であることは発表の中でも示されています。

一方、IBM の発表には金額がどこにも出てきません。受け取らないとは書かれていない——ただ触れていないだけです。無いことと、書かれていないことは分けて読む必要があります。

ソラソラ
同じ段なのに、言ってることが違うのはなんで?
インキーインキー
見せたい相手が違うんじゃないかな、というのが当サイトの読み。ただ中身の説明は食い違ってないよ。IonQ の「自社のロードマップに対する性能を示す」も、DARPA 側の言い方と同じなんだ。

DARPAは何を見るのか

QBI の責任者 Micah Stoutimore は、同日の発表でこう述べています。「Stage B は、参加者の計画を顕微鏡にかけることだった。前提を理解し、リスクを洗い出し、提案された開発の道筋が本当にユーティリティ規模まで到達しうるかを見極める」。そして「Stage C は、計画から証明へ移り始めるところだ。私たちのチームは、開発が進むハードウェアとシステムを詳しく精査し、技術がモデルやロードマップの言うとおりに動くかどうかを見極める」。

ここは読み落としやすい点です。IonQ の発表にある「同社自身の技術ロードマップに対する性能」という書き方は、一見すると自分の物差しで測るように見えます。しかし DARPA 側の説明も「モデルやロードマップの言うとおりに動くか」で、同じことを指しています。自己採点ではなく、出した計画と実物を突き合わせる作業です。

段の定義も、DARPA と IBM の発表で揃っています。Stage A は実現の道筋がある構想を出す段階。Stage B は包括的な研究開発計画とリスクと緩和策、そしてリスクを潰すために必要な試作機までを計画として出す段階で、DARPA はこれを「1年がかりだった」と書いています。計画に試作機が含まれる、という書き方であって、実機が作られて試験されたとは書かれていません。なお IonQ は自社の発表で、Stage A と B を通じて試作ハードのデータを DARPA へ共有したと述べています(IBM の発表は試作機に触れていません)。Stage C は、設計どおり作れて意図どおり動くかを政府側と検証する段階です。

2029年は、2つの別の約束

2029年が2つの別の約束を指していることを示した図。IonQはStage Cが2029年まで走る、IBMは2029年に最初の誤り耐性の計算機を出す予定、DARPAは2033年までに作れるかを問うている
同じ年が両方に出てくるが、約束している中身は別。

2社の発表を並べると、2029年という同じ年が出てきます。ただし指しているものが違います。IonQ の2029年は Stage C が続く期間の区切り(発表の表現は「2029年まで走る」)。IBM の2029年は、IBM リサーチのディレクター Jay Gambetta が「最初の誤り耐性システムを届ける見込みだ」と言った、作る側の目標年です。誤り耐性とは、計算の途中で必ず出る誤りを訂正しながら走り切れる状態のことで、いまの機械はまだそこに届いていません。

そして QBI 全体の問いは、2033年までに産業的に有用な誤り耐性の量子計算機が作れるかです。「産業的に有用」は計算の価値が費用を上回る機械と定義されています。性能ではなく割に合うかどうかで線が引かれている点が、この計画の特徴です。

この会社が量子で何をしているかはIBM|どんな会社?に整理してあります。IBM の発表では、340を超える組織がすでに同社の量子計算機を道具として使っているとも書かれています。

いま確かめられること

いま確かめられる現在地 各社・DARPAが置いている約束 答え合わせの時期
Stage C に6社が居る(DARPA が公表) 実機が政府側の検証に入る 検証の開始や結果が公表されるか
Stage C の交付上限は3億ドル (各社の実際の交付額は公表されていない) 各社の決算の注記に現れるか
IonQ は上限3億ドル。確定は初回の債務のみ 残りは今後の予算措置しだい 入金額が決算に出るか
IBM は2029年に最初の誤り耐性機を出すと言う 計画している機械は Quantum Starling 2029年までの中間の実機発表

検証できるのは左の列だけです。判断を早める材料を挙げるなら3つ。ひとつ、各社の決算の注記に QBI 関連の金額が現れるか(IonQ|どんな会社?で見たように、量子の売上は注記まで開かないと形が見えません)。ふたつ、計画ページの一覧から誰かが外れるか——注記のとおりなら、それは次の段の契約が出ていない状態を意味します。みっつ、Stage A・B に居る会社から Stage C へ進む会社が増えるか——DARPA は追加の昇格を見込むと書いています。

量子の名前で上場する会社が、みな計算機を作っているとはかぎりません。Quantisimo|SPAC上場の条件と、束ねる4社は、SPACと合併してNasdaqへ向かう枠組みの中身を見たものです。発表文が自ら「ピュアプレイ量子」の定義を書いているのに、束ねる4社の説明に量子計算機が出てこない——定義と中身を並べられる珍しい例でした。

よくある疑問

Q. Stage C に進めば、計算機が完成するのですか
いいえ。Stage C は QBI の中の段階で、提案した機械が設計どおり作れて意図どおり動くかを政府側と検証するものです。計画全体の問いは2033年までに産業的に有用な機械が作れるかなので、段が進むことと製品が出ることは別です。
Q. どの会社が有利ですか
この資料からは分かりません。DARPA は QBI を「競争ではない」「勝者と敗者を決めることを意図していない」としています。当サイトは個別銘柄の優劣や売買判断を書きません。
Q. 6社しか残っていないのですか
そうとは限りません。計画ページの注記によれば、一覧に載るのは現に作業範囲を持つ会社だけで、段の節目を終えた会社は次の契約が出るまで外れます。DARPA は2024年半ばの開始以来20社超を評価しており、直近では Quandela が2026年5月に Stage A へ加わっています。新規参加の公募も出ています。

まとめ

会社の発表だけを並べると、この日の出来事は「3億ドルの契約」に見えます。DARPA のページを開くと、その3億ドルは段ごとに決まった1社あたりの上限で、同じ段に居る6社に同じ上限が当てはまる。

桁の大きい数字は、たいてい誰かの手柄として流通します。その数字がどこに付いているのかは、出した側の資料を開かないと分かりません。今回それを確かめられたのは、会社の発表とDARPAの資料が同じ日に出ていたからです。

次に見る行は、各社の決算の注記です。上限と実入りの距離が測れるのは、そこから先になります。

出典

この記事が数字を取った時点: 2026-10-07(記事はこれより新しい発表も扱います。日付は本文に書いています)

数値は上記の原文から取っています。当サイトは特定銘柄の推奨・目標株価・売買の判断を書きません。

この記事を書いた人
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YA

某メーカーで働く30代、1児の親です。2025年10月から、米国企業の企業分析を個人で続けています。

やっていることは、わりと地味です。量子・宇宙・防衛の3分野について、各社がSECに出した書類の数字と、その日のニュースと、アナリストがどう言っているかを並べて、「で、いまどこにいるのか」を日本語に直す。英語の原文はいいことも悪いことも同じ顔で書いてあるので、その温度差ごと訳すのがこのサイトの役目だと思っています。

当サイトは銘柄の推奨・目標株価・売買のタイミングを書きません。

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